日本の再生エネルギー市場

電力自由化などに伴って、再生可能エネルギーの増加など日本のエネルギー市場は変わりつあります。しかし再生可能エネルギーに関連した仕組みは複雑になり、最近の変化はそれらに関する情報をよりわかりにくくしています。日本での再生可能エネルギーはどのような状況なのでしょうか。

2019年3月4日
山崎航

日本経済の規模は世界でもトップクラスの規模を持っており、2014年の電力消費もアメリカ、中国、ロシア、インドに続いて世界第5位となっています。しかし2016年度の電源構成の大半を石炭、石油や天然ガスなどの火力発電が全体の85%近くを占め、再生可能エネルギーは13%にとどまり、その半分が水力発電によって賄われています。化石燃料による発電の増加は2011年以来の原子力発電所の停止が主な原因ではありますが、再生可能エネルギーへの移行は鈍いのが現状です。

エコエナジーは私たちの基準に合致するラベル付き電力を世界各国で提供していくことを目標に活動しており、日本の電力市場もその対象の1つです。エコエナジーのラベルはその電力が周辺の生物多様性への最小限の環境負荷に抑えた発電所まで正しく追跡されていることを保証しています。再生可能エネルギーという選択肢に関する正しい情報を消費者のみなさまに伝えることは、私たちの目標を達成するために必要不可欠なものです。

世界的な事情と日本の証明書システム

EUや他の地域ではGoOI-RECに代表される再生可能エネルギー市場での追跡性のある証明書が存在し、それによって電力の環境価値が発電量に見合う形で発行、取引され、また発行量と同量が消費され、二重に環境価値がカウントされることを防止しています。2018年現在、日本には電力の環境価値を証明するエネルギー証明書の仕組みはグリーン電力証書、Jクレジットと非化石証書の3つがあります。同種のシステムではありますが、発行主体や対象などが異なり、その要件も異なっている状況です。いずれも発電された電力から独立した二酸化炭素排出削減ができる価値、また再生可能な電源を使用しているという価値を証明書として取引し、それらを炭素削減への取り組みに使用できる仕組みになっています。

ここ数年、個人向けの電力自由化やFIT電力固定価格買い取りの終了など、日本での電力を取り巻く現状は変わりつつあります。また消費者側も電力を選ぶことができ、再生可能エネルギーへの移行を進める企業も増えてきました。しかし再生可能エネルギーの調達にはエネルギー証明書の複雑さ、高い価格とエネルギー証書の仕組みが知られいない現状があります。

世界的な再生可能エネルギー移行促進活動の一つであるCDPRE100は2018年現在、3つすべての証明書をそれぞれの報告の仕組みで使うことを認めていますが、非化石証書には環境価値の二重カウント防止に必要な発電源追跡情報がないことを問題視しています。

非化石価値証書-FIT電力の環境価値

3つのうち最も新しいのが2018年に取引が始まった非化石証書です。電力市場自由化以後参入した小売電気事業者向けに環境価値を購入する手段を提供し、さらに固定価格買取制度(Feed-in Tariff)によって買い取られている再生可能エネルギーの環境価値の取引を通して消費者負担を減らすために作られた証明書です。最初期にFIT認定を受けた設備が期限を迎える2019年以後、FIT以外の電気の非化石価値も取引されることになり、原子力電源を含んだ指定なしの証書が登場する計画になっています。

2009年から日本ではFITを通して再生可能エネルギーの設置促進が行なわれてきました。これは政府が認定を受けた発電施設から一定期間電力を固定額で買い取る保証を与えるものでした。当初は一般家庭向けの太陽光発電導入促進の制度として始まったこの制度では発電された電力は送電網に送電され、買い取りのコストを国内の全消費者が負担するシステムになっています。そのためその環境価値も国内でプールされ、発電者・購入者ともにその環境価値を買い取って使うことはできませんでした。

経済産業省の資料を元に作成

非化石証書はFIT電気の環境価値を可視化して電気事業者が購入することでFIT制度の負担軽減と小売事業者への環境価値購入手段を提供することになります。証書は小売事業者向けの卸電力市場であるJEPXで電力そのものとは別に取引されます。この証書自体にはどこで発電されたものかという情報がなく、追跡ができないのが問題視されています。

証書は再生可能指定のものと指定なしのものの2種類ありますが、2018年現在ではFIT電力に対してのみ発行されているため、すべてが再生可能エネルギー指定の非化石証書として取引されています。

経済産業省の資料をもとに作成

Jクレジット-プロジェクト単位のカーボンクレジット

より大規模のものにJクレジットがあります。これは経済産業省、農林水産省と環境省が共同で運営する二酸化炭素削減価値を基準に発行される取引可能なクレジットです。このシステムでは再生可能エネルギー発電に加えて省エネ機器導入を通した削減価値、さらに森林整備を通した二酸化炭素吸収量の増加などのプロジェクトに対して発行されます。プロジェクト実施者はJクレジット販売を通してプロジェクトのための資金調達ができ、購入者はクレジットを使用して排出削減への取り組みを報告することができます。2016年度の削減価値から逆算した発電規模はおよそ1億5000万kWhといわれています。

グリーン電力証書

グリーン電力証明書は民間企業によって発行される環境価値証明書で、2001年に始まりました。これは企業などの大規模消費者に向けたもので、経済産業省と環境省による証明書の認証手続きを経れば各種の省エネや温室効果ガス削減の報告に使用できるものです。ただしその規模は限定されており、自然エネルギー財団によればおよそ311kWhほどだとされていいます。価格や限定的な発光量などの理由でこの証明書を通した再生可能エネルギーの調達は限定的であるといえます。

今後の日本のエネルギー市場

上記3つのシステムそれぞれでは環境価値が二重にカウントされないような措置がある程度取られていますが、集権的なトラッキングシステムが無いことでシステム間で完全に二重カウントが排除されているとは言えない状況です。現在経済産業省では非化石証書に対するトラッキングシステムの実証実験を2019年2月の取引分で行う計画が進んでいます。非化石証書にトラッキングシステムが組み合わされば再生可能エネルギーの環境価値取引の規模が拡大し、企業にとってもCDP質問書への回答やRE100への取り組みへの障壁が下がることになります。また小売事業者にとっても企業や一般家庭に向けて電気の「グリーンさ」をFIT電源以上に訴えやすくなることが予想されます。

エコエナジーは日本でのトラッキングシステムの導入を歓迎します。エコエナジーのラベルは既存の3種類の証明書に付与する形で利用でき、日本におけるパワーシフトを促進するさらなる助けになると考えています。イオングループ富士通マルイグループなど日本企業の多くがRE100への参加表明を行うなど、世界的な再生可能エネルギー100%に向けた流れは加速しています。 私たちの過去5年間の取り組みに関しては活動レポートをご覧ください。

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